『三者共同声明』の発表にあたって
2011(平成23)年11月11日
和歌山大学長 山本健慈
本日、国立大学法人和歌山大学過半数代表者および和歌山大学教職員組合執行委員長と「地方国立大学の教育研究の持続的発展に関する共同声明??国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案及び運営費交付金問題について」を発表いたしました。この声明の意図するところを学内外のみなさまには、ご理解いただけますよう切にお願いする次第です。
私は、東日本大震災にかかわる復興事業には、国民すべてが参加すべき課題であると考えており、今国会に提出された第3次補正予算及びそれに関連しての国家公務員給与関連法等も、政治行政上の苦悩と熟慮をへて決定されたと理解しています。
しかしながら、この財政方針が、今後数年間の高等教育予算編成に及ぶならば、それは単に教職員の給与への影響を超えて、高等教育機関、とりわけ財政的基盤の脆弱な地方国立大学の教育研究機能、および地域?社会貢献機能に大きな衰弱をもたらすことをご理解いただきたいと思います。
今国会での審議、それに続く来年度予算編成と国会審議においては、高等教育機関の今日的使命を深く考慮していただくことをお願いいたします。
また、和歌山大学の教職員はもとより、学生のみなさん、学生のご家族、卒業生、地域のみなさま方には、国会審議および予算編成過程に深い関心を寄せていただきたいのです。そして、自らの経験と思いを発信し、高等教育機関のミッションと財政にかかわる国民的議論が沸き起こりますようにご尽力いただきたいと思います。
和歌山大学は、法人化以降も教職員給与をはじめ財政的縮減にもかかわらず、地域社会の方々の激励にも支えられ、誇りを持って「地域を支え、地域に支えられる」大学、?学生の生涯を応援する?大学づくりを目指して、努力を重ねてまいりました。
本声明を契機に、地方国立大学への理解が深まり、日本の高等教育発展にむけての社会的対話がよりいっそう広がりますならば、私どもはさらなる誇りと勇気をもって、いままで以上の努力を積み重ねていくことができると確信しております。
地方国立大学の教育研究の持続的発展に関する共同声明
「国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案」及び運営費交付金問題について
国立大学法人和歌山大学 国立大学法人和歌山大学 和歌山大学教職員組合
学長 山本 健慈 過半数代表者 阿部 秀二郎 執行委員長 佐藤 和正
政府は、平成23年10月28日の閣議において、平成23年度は人事院勧告を見送り、国家公務員の給与を平均7.8%引き下げる「国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案」(以下「特例法案」という。)を成立させる方針を決定しました。
国立大学法人は、世界の人々や国民、学生、保護者、地域社会に対して、将来にわたって責任を有しています。教育も研究もその成果は社会全体の資源となりますが、そこから得られる利益は容易には測ることのできないもの(サン?テグジュペリ:フランスの作家)です。そして、利益が測りにくいものだからこそ、結果への過程が重視(マイケル?ポランニー:ハンガリーの科学者)されます。先進諸外国における高等教育への公財政支出は日本に比べて大きく、国立大学の学生数に対する教職員の割合も高いことは、これらの国がこの「過程」を重視していることを意味します。
大学の経営者と労働者は、時としては対立する側面を有しつつも、ともに上記の責任を全うする大学構成主体として、共同声明に合意し、共通する問題解決に取り組む決意を学内外に発信いたします。
共同声明
1. 大学人は東日本大震災の復興に積極的に参加します
(1) 東日本大震災という未曾有の国難のもとで、国民全体ができる限りの対応をすること、財政的基盤を含めたさまざまな可能性を考慮すること、に対して賛意を表します。
(2) 私たちは、高等教育に携わる教職員として、研究をとおして復興に貢献するとともに、長期にわたる復興事業を担う若い世代の育成に努めます。
2. 『特例法案』について、国会における慎重審議と十分な国民的議論を求めます
(1) 上記の使命を考えるとき、国家公務員の人件費削減のみが先行する現状には強い危惧を覚えます。まずは、日本の未来に希望を示す復興計画が提示され、その実現のために財源や負担のあり方の国民的な合意がなされるべきです。日本の復興に、国家公務員や国立大学法人が担う使命と役割は大きく、安直な人件費等の経費削減は復興推進に逆行することになります。
(2) 国家公務員人件費の削減や公的部門の予算削減は、必然的に地域経済等へ波及し、地域社会全体の疲弊と低迷を招きかねません。拙速な対応の結果が社会全体の中長期的な利益、延いてはすべての被災地域の利益をも失わせることがないよう、国会での慎重かつ十分な審議を求めます。
3. 『特例法案』が可決された場合の運営費交付金の削減に懸念を表明します
(1) 国立大学協会の議論でも、この間の運営費交付金の削減や総人件費改革の影響により、教員の年齢構成のアンバランスや常勤者の減少などの弊害が指摘されています。
全国の国立大学の労働組合にも、予算の低減や多忙化により十分な教育?研究が行えない、教育?研究に必要な費用を自費で負担している、といった教職員の声が数多く寄せられています。
和歌山大学の教職員全体の多様な意見を受け止め、これを代表する過半数代表者としても、こうした事態がこれ以上和歌山大学に波及することを深く憂慮します。
(2) 日本に暮らす全ての人びとにとって、教育の機会均等性(誰もが教育にアクセスできること)や研究の質の維持は社会的な資源です。それらを維持するためには、適切な財政保障を必要とします。
「特例法案」の可決に連動して国立大学の運営費交付金が削減されれば、教育?研究に必要な経費や教職員の給与も大きなダメージを被ることが危惧されます。これにより、国立大学の教育?研究の基盤は根底から崩壊しかねません。
地方国立大学である和歌山大学では、優秀な研究者?職員の獲得困難?流出や、附属学校教員の公立学校教員との給与格差が拡大することなどが懸念されます。
(3) 今回の東日本大震災は、改めて教育?研究の成果が多様であることの大切さを気づかせてくれました。多様な専門的研究が、創造的な教育を生み出し、多様な人材を養成します。大学の教育?研究は、こうした多様な研究成果と人材養成を通じて、将来的な危機対応と社会の持続発展に不可欠な役割を担うものです。
(4) したがいまして、「特例法案」が可決された場合においても、運営費交付金の削減が安易になされないことを、和歌山大学人として強く希望します。
地方国立大学の教育研究の持続的発展に関する共同声明(224KB)